ユネスコ世界遺産を喜ぶ前に考えたい軍艦島と朝鮮人強制連行の歴史 | ANTIFA★黒い彗星검은혜성  だにえる단열の一言。

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韓国籍在日朝鮮人3世、いわゆる「在日コリアン3世」のだにえる단열が大好きな『日本』について書く、そんなブログです。
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 林えいだい氏の『筑豊・軍艦島 朝鮮人強制連行、その後』を仕事の合間に読んで、歴史を浅薄な知識で勉強した気になっていた自分を恥じる。自分が同胞史のなかでもっとも重要な「強制連行」と『慰安所』システムの問題にたいして、全体の構図や用語と数字のみで理解していた気でいた自分が情けない。さらには、そういったこともあってか読み進めれば読み進むほど気が重くなる。
 林氏の著作は、その取材の丁寧さと情報量もさることながら、被害者とその親族の言葉とともに必ず裏付ける資料を出そうとしていたり、当事者や親族たちや関係者の話を写真(表情)を織り交ぜ、細かな感情までも記述されていて、歴史的事象をいっきに身近な問題として引き寄せる魅力がある。
 そして、何より臨場感あふれるように小説風にルポを書いていることも大きな特徴だ。豊富な写真資料もあいまってか、想像力をかきたて、いっきに強制労働としての炭坑労働の過酷さが伝わるように書かれている。また、事実として朝鮮人や中国人捕虜の抵抗(ストライキや爆破予告など)や逃亡(命をかけた島からの脱出)などや、戦後混乱における中国人捕虜の暴動、帰国船の遭難と水死体、その遺体の墓をつくる謎の5人組などなど・・・生々しい描写が続く。
 読み進めると、強制連行の歴史の前史であり、日本帝国の植民地帝国期の通史のような複雑で怪奇な、権力と資本の動きと人々の生活とか密接な関係を持ちながら動いている人の営みのようなものが複雑に絡み合うのがみえてきて、歴史というものが物語を超えて、現実の風景をみているような、そのような目眩さえ覚えさせる

 そして、私にとって印象深かったのは、「強制連行」の前史においての朝鮮人労働者の流入と炭坑労働などへの従事は、朝鮮半島の急激な近代化による失業と貧困による出稼ぎの形態であったり、世界恐慌の時はいっせいに解雇されたりと一貫して「使い捨て」の労働力であったが、帝国の侵略戦争が激しさを増すにつれ、日本人男性の戦争への動員と石炭需要の増加によって、慢性的な労働力不足が起きて、半島での自由募集から、官斡旋、徴用の形へ「強制連行」が始まったことだ。このどれも官憲と企業の癒着によって組織的に行なわれたこと、動員された朝鮮人労働者たちにとっては、強制連行でしかなかったことが理解できる。町の統率者である面長や面巡査による強引な手法で、集合させられ、トラックに乗せられ炭坑などへ行かせられる。そこで注目すべきは、命令書などの書類や最初は2年契約であるという書類が形式的にはあって、近代的な巧妙なやり方で、騙してあるいは強制していたことが分かる。また、さらに卑劣なのが炭坑に長く働かせようとして、遊郭・飲食店・賭場などで遊ばせて借金を負わせて、親方や元締めが借金を肩代わりする変わりに働かせていたことなどだ。

 また軍艦島(端島)に関しては、より生々しく卑劣なのは、波止場で釣りをしているようにみせかけている労務係が24時間監視していたり、また、労務係や飯場長や元締めを朝鮮人で固めていて、この朝鮮人たちはあろうことか自分たちと同じ同胞を拷問や虐待を平気で行い、傷めつけながら言う事をきかせ働かせていたことだ。日本人管理者たちは当時から、直接、手を汚さずに同じ同胞どうしで憎しみを増幅させながら管理・支配するシステムを確立していたのである。そして、どうやら日本人労働者は別の管理の手法で働いていたらしく、朝鮮人は日本人の半分の賃金で働かされ、危険でもろい場所での作業に従事させられていたことも分かる。そして、多くの朝鮮人労働者たちが事故や拷問で亡くなったり、島から出ようと泳いで溺死していた。そして、朝鮮人の他に、中国人捕虜なども強制的に働かされていて、暴動が起きないように、島の中で隔離して管理していたことも分かる。また、当時の九州の炭坑では、連合国軍の捕虜も強制労働させられていたことも記されている。

 さらに飯場には「淫売業」も営まれ、それは上記のように遊ばせて借金を負わせたり、独身の朝鮮人労働者を長く拘束させ働かすために利用された。そして、林氏の記述には、2名の朝鮮人の「酌婦」が島で自殺したことが記されている。この朝鮮人女性もおそらく、騙しや官憲による強引な手法で強制連行された女性たちであったと推測される。このように同じ同胞どうしを「淫売」を通して結びつけ、この「監獄島」に拘束していた。あまりにも卑劣過ぎる。また、あろうことか端島の「慰安所」の女性たちは、性病にかからなかったという理由で公的に表彰さえされている。さらに表彰に関しては、朝鮮人労働者にも採掘量を競わせて、表彰したりしていたという。何重にも巧妙な支配のテクノロジーは見え隠れする。

 そして、2年の契約が過ぎた朝鮮人労働者には、他の日本人炭坑夫のように、家族を連れて来ていいと許可を出して契約を延長させてまで、軍艦島に留まらせようとしたことも書かれている。だから、朝鮮人の強制連行者の中には、家族が一緒に住んでいたことも理解できる。そして、私は、他の地域でもよくみられる強制連行の朝鮮人たちが、どうやって家族を半島から呼び寄せて、一緒に暮らしていたか、疑問に思ったことがあったが、林氏の詳細な記述により長年の謎がようやく解けた。

 長々と書いたが、まだ書き足りないくらいこの本には、様々な事柄が書かれている。もし私の文章をここまで読んだ方がいれば、ぜひ読んでみて欲しい本である。そして、林えいだい氏の仕事に敬意を示しつつ、他の日本の地方での強制連行の場でも同じようなことが起きていただろうと想像力を膨らませながら、私の地元での強制連行の跡地をもっと詳しく調べてみたいと思った。さらにこれらの問題を現代の問題の延長線として、現代の問題も深く考えたいと思った。ちなみに軍艦島に強制的に連れて来られた朝鮮人は日中戦争を境に500~800人いたとされる。1925~45年に軍艦島で亡くなった朝鮮人は記録上、122人だった。


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